遠距離恋愛ゲイの独り言〜ふたたび

旦那と15年以上遠距離恋愛しているゲイのブログ。日常の些細な悲喜交々を気の向くままに。

人間万事塞翁が馬

しばらくぶりの更新となってしまった。

1ヶ月前、世界中がコロナ禍に憂えている時、突然、別の禍いが自分の家族にふりかかり、以来ずっと思い悩んでいた。


時は4月末。自分は具合の悪い親を連れ、実家から1時間ほどの病院に来ていた。

その数日前、親のかかりつけの医師に呼ばれ、

「定期検診の結果に異常がある。別の病院で至急精密検査をした方がよい」

そう言われたのである。

 

コロナ感染予防のため、病院も厳戒態勢が敷かれていた。患者達の様子を見る限り、その検査は若い人でも相当キツそうで、高齢者にはあまりに過酷なものだった。

結局、検査を終えたのは夕方。親は心身共に疲労困憊という様子。

長い検査が終わったことで、付き添いの自分はすっかり気が抜け、結果のことなぞ忘れていた。

そこへ親の名前を呼ぶアナウンスがあり、診察室に一緒に入った。

自分より10歳くらい若そうな女医が座っており、親に向かってこう言った。


「検査の結果、ご自身で聞いて構わないですか?」


(え?まさか…)


口の中が一瞬乾いたような気がした。

親は黙ったまま頷いた。


女医は画面を見せた。


「実は…腫瘍が2つ見つかりました」


ーー腫瘍?それって…


「はい、癌です。念のため病理検査に出しますが、十中八九、これは癌ですね」


突然の告知に、まるで何かで思いっきり殴られたような気がした。


(母親が癌?嘘だろ?)


そんなことを聞かされるとは、想像すらしておらず、頭の中が真っ白になった。

母親の家系には癌体質の人間がおらず、

「親も自分も癌にはならない」、勝手にそう信じていた。

だが、それが一瞬にして崩れ落ちた。


(ステージは?転移は?余命は?)


次から次へと恐ろしいことが頭に浮かぶ。

 

親は一言も発せず、ただ俯いたままだった。

どんなにショックを受けただろうか?

その後、家に帰るまで、何も話さなかった気がする。

 

親はこれまで不思議なくらい大病の経験がなかった。日頃からとにかく健康に留意し、食事や運動、そして検診も定期的に行い、ずっと悪い兆候はなかった。なので今回の不調も軽く考えていた。


(そんな親がなぜ?これからどうしたらいい?)

 

あまりの衝撃に自分は狼狽し、変になりそうだった。

 

家に戻ると自分の部屋に入り、震える手で旦那に電話をかけた。

彼は時折相槌を打ちながら、静かにこう言った。


「前にも話したと思うけど、俺の母親も同じ部位に癌ができて、数年前に手術して治って今も元気にしてるよ。癌はもう不治の病ではないよ。だから君のお母さんも大丈夫だよ」


いつもだったら、旦那の軽いとも思えるような言葉に、素直に納得できなかったはず。

なぜなら病状なんて人それぞれだから…

それでも、何かにすがりたいという思いからか、「大丈夫」という旦那の言葉によって、少しだけ落ち着いた。


(でも、よりによって、どうしてコロナが流行している時に…)

 

再び気が沈み、自分の不運さを口にした。

すると彼は、


「コロナが流行ってなかったら、今年のGWは、俺たち海外に行くことになってただろ?それで直前にお母さんの病気が判明したらどうした?きっとドタキャンせざるを得なかったと思うよ」


そうだ…もしもコロナがなく、病気が判明してたら、当然旅行どころではなかっただろう。

コロナ拡大で飛行機が欠航したから、海外行きは中止となり、キャンセル料もかからずに済んだのだ。


「それとさ、コロナで在宅勤務だったから、すぐお母さんを病院に連れて行けたんだろ?もしも君が普通に出勤してたら、病院行けたか?簡単に休めなさそうだし、きっと診察とか検査が遅くなってたと思うよ」


そうだ、確かに旦那の言う通りだ。


「お母さん、君にきっと感謝しているはずだよ。だって、もしも君が結婚していたら、そんなに親にかかりっきりになれないはず。奥さんや子どもがいれば、それどころではないはずだよ」


聞いているうち、次第に涙が溢れ、嗚咽まで漏らしてまった。


「自分は親孝行なんて全く出来ていない。ずっと迷惑かけてばかりだ」

「結婚して配偶者や子どもがいたら、もっといろいろ出来たのではないか?」


そんな自責の念に自分は常に駆られていたからだ。


最後に旦那は言った。


「“人間万事塞翁が馬”って言うだろう?不運だと思ってたことが、後で逆に作用して救われたりさ。結局何が良いことで、何が悪いことだなんて、一概には言えないんだよ」

 

彼の言葉にどこか救われたような気がした。


「とにかく今は君がしっかりしないと!君が取り乱していたら、お母さんもっと心配するぞ!」

 

胸が詰まり、自分は電話越しに何度も頷いた。

…………

それから1ヶ月が経過。

心配していた転移もなく、先日母親はどうにか無事手術を終えた。

 

この1ヶ月間、自分は今まで考えなかった(いや、考えることを避けていた)様々なことを、ずっと考え続けていた。

 

家族だろうが恋人であろうが、どんなに大切に思っていようとも、いつかは永遠の別れの時がくる。

その時、後悔しないよう(そんなこと言っても絶対あるだろうけれど…)、出来ることは可能な限りしておきたい。

親に対しても、旦那に対しても……今そう強く願うのだ。