遠距離恋愛ゲイの独り言〜ふたたび

旦那と15年以上遠距離恋愛しているゲイのブログ。日常の些細な悲喜交々を気の向くままに。

桜が満開の頃

毎年今頃になると、決まってある人のことを思い出す。

その人は二丁目のある店でたまたま出会った男。旦那と付き合う前のことだ。


当時20代だった自分は「ゲイ活」にいそしみ、毎週末二丁目に通っていた。

ある日勤務先での花見の帰り、たまに行く店に立ち寄った。9時過ぎくらいだっただろうか。

扉を開けると、マスターとひとりの客がいるだけ。

その客が振り返り目が合った瞬間、全身に電流が走り、まるで一瞬身体が固まったような気分になった。

自分がずっと心に描いていた理想の男がここに居る…まさにそんな感じ。

そう、一目惚れだ。


男から目が離せないまま、マスターに促され隣の席に腰を下ろす。


彼に魅かれたのは整った容姿と恵まれた体型だけではない。知性的な眼差しや穏やかな口調。そしてひとつひとつの動作が実に堂々としており、余裕たっぷりな自信のある雰囲気を醸し出していた。


花見で少し口にした酒の酔いもあったせいか、自分はぼんやり夢見心地で、初対面の彼といろいろ話した事を憶えている。


彼が当時30半ば過ぎで某航空会社に勤務するサラリーマンだということ。

最近、渋谷にマンションを購入して一人暮らしを始めたこと。

付き合っていた恋人が突然海外留学したいと言い出し別れてしまったこと。


そんな立ち入った話を聞き、屈託無い笑顔を見ているうちに、どんどん彼に魅かれていく自分がいた。


だがついに連絡先を聞き出すことは出来ず、彼から聞かれることもないまま自分は先に店を後にした。


帰っても彼のことが忘れられず、翌週の金曜日にまたその店を訪れてみた。しかし彼が姿を現すことはなく、その翌週、翌々週もやっぱり来なかった。


自分が毎週末店に行き彼のことばかり話すので、マスターはきっと気づいていたと思う。

でも仲を取り持つような面倒なことは一切しないと聞いたことから、自分がひたすら店に通い、偶然彼が来店する以外に再会する方法はなかったのである。

 

その後も2ヶ月くらい毎週通い続けただろうか…それでも彼に会うことはなく、いつしか別の店を開拓し新たな出会いを求めるようになった。

そして幾人かの男達と知り会った。だが心にあるのはいつも例の彼のことだけ。


やがて季節は巡り、再び桜の季節となった。

またしても勤務先の花見帰り、ふと思い立って久しぶりに例の店に行ってみることにした。

1年近くも経つというのに自分はまだ彼のことを忘れられることが出来なかった。


扉の前に立つと中が騒がしい。

何となく躊躇しつつも思い切って開けると、

数人の客が座っているのが目に入った。

カウンターの中央には端正な顔立ちの男。


(ああ、あの人だ!)


胸が自然と高まる。

だが…


(あれ?人違い?)


よく見ると中央の男は彼ではない。

もっと若くまだ20代だろう。自分より年下?


彼はその隣?


若い男の隣に座る30代くらいの男こそ、一年近くずっと恋い焦がれていた男であることに気づいた。


(じゃあ中央の若い男は誰?)


数十秒の間にあれこれ頭に浮かぶ。

マスターに声をかけられ、カウンターの端に座り込んだ。

 

自分は彼に気づいてもらいたく視線を送り続けた。だが彼の目には全く自分のことなぞ入っておらず、隣の若い男をとろけそうな目で見つめている。


やがて男が突然立ち上がり、


「じゃあ、皆さんご唱和ください!俺とNEW MY彼氏の出会いに乾杯!!」


とグラスを高く掲げたのである。


(え???何???)


自分にはまだ飲み物も出ておらず、何が起こったのかよくわからないままただ呆然とするのみ。


店の他の客は次々と「おめでとう!」と言いながら、彼らふたりにグラスを合わせていく。

そう、中央の若い男は自分がずっと想い続けていた彼の新しい恋人だったのだ。


(ホントよく似ている…まるで兄弟みたい。いい男はやっぱりいい男が好きなんだな)

 

ただ惨めな気持ちでいっぱいだった。


隣に座っている見知らぬ客が聞いてもいないのにペラペラ自分に語り出す。


「ふたりは同じ会社なんだって~中央の彼は新入社員ちゃんなのよ~内定した時に初めてココに来て、マスターが“カッコいい先輩がいるよ~”ってふたりを最近引き合わせたんですって~イケメンエリート同士だからお似合いよね~来月から同棲するんだって~素敵よね~」


自分は黙って頷き、注がれたハイボールを呷った。


(皮肉なものだな…何でこんな日に居合わせなければならいけないんだろう…マスターも仲を取り持つようなことはしない人と聞いていたのに…)


一目惚れから1年。最悪の幕切れである。

自分は彼らと会話をすることもないまま、一杯だけ飲んでさっさと店を出た。

以来その店には二度と顔を出すことなく、他の店でも彼らに会ったことがない。


でも毎年桜の花びらの舞い散る夜道を歩いていると、彼のことがふと頭に浮かぶ。


(彼もいい年になっただろうな。あの時の恋人と今も一緒に暮らしているんだろうか?)


付き合ったわけでも告白したわけでもないのに、彼のことを考えるとなぜか胸がグッと締め付けられるような気持ちになる。