「Nも誘うから、3人で忘年会やろうよ!」
と久しぶりに連絡をしてきたのは、Tちゃんという自分と同い年のゲイ友。
普段ならこの時期「忘年会」と聞くだけでウンザリするところだけど、馴染みのゲイ仲間となら楽しいかも?
連絡をくれたTちゃん、そしてNクンとは、数年前に新橋のゲイバーでたまたま席が隣り合って意気投合。
口の悪いゲイ友が多い中、Tちゃんは優しい言葉遣いで、決して人に嫌なことを発しない人。
見た目は少しコロッとした体型で、人懐っこい笑顔の似合う男。どの店に行っても必ず声をかけられるいわゆるモテ筋。
彼にも自分と同様、ひと回り年上の旦那がいる。
もうひとりの、Nクンは自分より少し年下。やっぱり彼も少しポッチャリ系。性格はかなりのおとぼけさん。
Nクン、長年パートナーがいなかったんだけど、最近ゲイだけが所属する某スポーツサークルで、ついに彼氏が出来た。
時は遡ること、3か月前。
Nクンは付き合いだして早々、Tちゃんと自分に彼氏を紹介するべく、新橋の店に連れてきた。
Nクンカップルに会う前、一足先に写メで彼氏を見たというTちゃんからこっそり釘をさされる。
「Nの彼に絶対にちょっかい出しちゃダメだよ」って。
「え?そんなことしないよ!(笑)」と驚く自分。
(全く!Tちゃん何でそんなこと言うんだろ?)
だが5分後、その意味が分かった。
Nクンと共に店に姿を現わしたその彼氏は、物凄く自分好みの顔と体型をした男だったのである。
一重のタレ目で、すっと通った鼻梁。太い黒いフレームのメガネがよく似合い、素朴で実に男っぽい顔立ち。さほど背は高くはないが、胸板厚く、肩幅が広いガッチリした体躯。
(へえ~Nクン、いい男をつかまえたな~それとTちゃんは俺の好みをよく分かってるな~(^^;)
と思わず感心してしまう。
ところで、自分に連れ合いがいるにも関わらず、友人の恋人が自分の理想とするようなタイプの人だったらどうする?
(自分は、いつもこんなつまらないことばっかり考えてしまう)
A.友人を祝福する
B.羨ましがる(嫉妬する)
C.奪う
まあね、ブログ上ではいい人を気取って「A」って言っておきたいけど、本音を言えば、「C」寄りの「B」。
でも、相手がこちらに気がなければ、奪うも何もないよね…(^ ^;)
4人揃ったところで、早速バーのカウンターに、Nクンと彼氏を並んで真ん中にし、自分とTちゃんがふたりを挟むようにして座る。
自分はNクンの彼氏の隣。友人の彼氏と分かっていながらも、興奮冷めやらぬ。
そして、いわゆる「100の質問」を、さながら刑事の尋問のように鼻息を荒くさせながら、彼氏にぶつけ始めた。
だが、その4分の1も聞かないうちに、
一番端に座るTちゃんから、
「◯ちゃん(自分のこと)、そろそろ旦那さんに電話しなくていいの?心配するんじゃない?」
と優しく制される。
(あぶない!Nクンの彼氏だということを忘れそうになった!)
ようやく我にかえる。
Tちゃんってこういう時、ホント上手に気を回すんだ。
その日はモヤモヤしたまま、一足先に帰った自分。
(あれからNクンカップルはどうなっただろう?)
そんなことを思い巡らしていた矢先、冒頭のTちゃんからの忘年会の誘い。
3人で焼肉屋に行くことになったのだ。
先に店に来ていたTちゃんの話では、
「Nがふたりに相談があるって言ってた」んだとか。
相談???
「何だろう?早くも彼が浮気??それともセックレス?別れ話?」
と期待半分、下品なことを口にする自分。
Tちゃんは、笑いながら
「ないない!あのふたり今最高にいい仲みたいだよ!年末年始も一緒に過ごすみたい」だって。
あ、そう…イジ悪いゲイ友の発想がうつったかしら?(^ ^;)
程なくして、Nクンも店に到着。
まずは生ビールで乾杯。
焼肉を頬張りながら、しばらくは、互いの近況を語り合う。
何しろ仲が良いといっても、普段会うのは3ヶ月1回程度なので、積もる話もあるというものだ。
やがて、Tちゃんが
「ところでNの相談って何?」
と切り出した。
するとNクンが言いにくそうに、モジモジしながら、
「うん……この前、彼が突然エッチの時に"挿れたい”ってきたんだよね。だけどそこまでヤッたことないから、その場ではダメってなってね。で、ふたりはどうなのかな?って…」
(は?“相談”ってそんなこと??中学生じゃあるまいし!)
自分とTちゃんは思わず顔を見合わせた。
軽い猥談はともかく、今まで彼らと自分のパートナーとの夜の営みについて微に入り細に入り、話をしたことはない。
20代ならいざ知らず、何で突然食事の場でこんな話をするんだろう?
もしも、口の悪いゲイ友なら
「冗談はアンタの顔だけにしてちょうだい!!そんなに知りたきゃYahoo!知恵袋にでも聞きなさいよ!」
と怒鳴ることだろう。
自分もそう言ってやりたかった。
いつも優しいTちゃんは果たして何て言うか?
すると…
「そういうのを俺たちに聞くのはダメだよ。
だって、それってふたりだけの問題だろう?他人に聞くことじゃないよ!」
とピシャリとはねつけた。
(へえ~Tちゃんにしては珍しい言い方だな)
Tちゃんの旦那とのエッチな話を聞いてみたかった自分は少しガッカリ。
そこで自分は、
「まあ、もし俺が女性だったら、今頃旦那の子どもをいっぱい産んでるよ!」
と言ってやった。
Nクン、意味分かったかな~?(^ 3 ^)
さらに場を和ませようと、
「ブログでも開設したら?“Nの開発日記”とかいうタイトルでさ!いろいろ試したプロセスを書いたら、ウケるんじゃない?」
と提案してみた。
しかしふたりには全然ウケることもなく、Tちゃんからは、たしなめられてしまう始末。
やがてNクンもようやく場を理解をして、大人しくなった。
(全く相変わらず世話が焼けるんだから…)
急にむしゃくしゃして、追加でオーダーしたカルビとタン塩を、腹いせにひとりでパクパク食べてしまった。
その後、彼らと分かれ、ひとり大混雑の電車に揺られながら、いろいろ物思いにふける。
頭に浮かぶのは、あの自分好みの「Nクンの彼氏」のこと。
(もしも「Nクンの彼氏」とデートしたら、どんなだろう?)
当たり前のことだけれど、今Nクンの彼氏がNクン以外、全く興味がないのはよくわかっている。それでも考えずにはいられない。
(こんな年末近くに、彼らの秘め事を聞かされるなんて…)
旦那がいながら、ゲイ友の幸せを素直に喜んであげられない自分は心が狭い?嫉妬?
羨んだところで、詮無い(仕方ない)んだけど…
思いは千々にみだれるまま、帰路に就いたのである。