遠距離恋愛ゲイの独り言〜ふたたび

旦那と15年以上遠距離恋愛しているゲイのブログ。日常の些細な悲喜交々を気の向くままに。

2丁目での出逢い

それは、2丁目でソロ“ゲイ活”を始めて1年くらい経ったある日のこと。


まだ20代だった自分は、当時よく通っていた店のカウンターで、ひとり静かに飲んでいた。


大勢の客でごった返す店内。

その日はあいにく仲の良いスタッフが休暇を取っており、周りに気になる客もいない。


(そろそろ別の店に行こうかなぁ~)


帰りどきを見計らっていた。

 

するとその時、

 

「隣、いいですか?」

 

ひとりの男に声をかけられる。


声の主を見ようと、パッと顔を上げたその瞬間、自分はしばらく彼から目が離せなかった。

向こうもこちらをジッと見つめ返す。


男は30代半ばくらい。

目鼻立ちの整った男らしいタイプ。いいガタイで、ジャケットもよく似合っている。


(いい男だ…やっぱりまだ居よう!笑)


そう決めた自分は、深く座り直し、隣に座った男に早速話しかける。


聞けば、彼はひと月前に初めてやってきて、2回目の来店だとか。


自分はもっといろいろ話そうと勢いづく。

だが、ここで思わぬお邪魔虫が…


店の奥から、


「久しぶり!遅かったね~」


と、親しげに自分の隣の男に声をかけるひとりのスタッフ。

隣の男は、こちらをチラッと見ながら、黙って頷いた。


どうやら、男は前回来た時に、そのスタッフと「一緒に飲もう」と約束していたらしい。

男は地方在住のため、東京には1か月に1回来る程度で、今回ようやく来ることができたという。


隣の男には愛想の良いスタッフだが、こちらにはニコリともせず、


「帰るんじゃなかったの?」


と一言。


(絶対!帰らない…笑)


スタッフが他の接客で外している間、自分はチャンスとばかり隣の男といろいろ話をする。

そして彼もいろいろ尋ねてくる。


「どこに住んでるの?」

「いつ頃から飲みに来てる?」

「職場は?住まいは?趣味は?」


話が途切れることがない。

こんなに楽しい時間を過ごすのはいつ以来だろう?


店はさらに賑わい、やがて満席状態に。

終電の時間はもうとっくに過ぎていた。


いつしか自分と男はぴったり寄り添っていた。

グッと押し付けられた太腿から、彼の体温が伝わってくる。


(もっと一緒にいたい!彼のことをもっと深く知りたい!)


その想いはさらに強くなる。


だが、先ほどのスタッフがまたもや邪魔しにやってきた。

どうやらシフト交代の時間らしく、強引に自分と隣の男との間に折りたたみ椅子を持って、割り込んできたのだ。


そのスタッフにしてみれば、彼と先に飲む約束をしていたのだから、こちらこそ思いがけない「邪魔者」だったわけで…


隣の男もそれを承知しており、スタッフを無下にシャットアウトなぞしない。


それでも3人で話しているうち、自然と自分と隣の男だけで話し込んでしまい、スタッフは相当不機嫌になっていた。


気がつけば、土曜日の朝4時近く。

もうすぐ閉店。

2丁目で朝まで過ごしたのはこれが初めてのこと。


男は仕事でその日からヨーロッパに出張するため、一度ホテルに帰り、その後空港に向かうという。


(ああ、もうこれで会えないんだろうな~)


そんなことを考えていると、


「ねえ!3人で連絡先交換しない?」


スタッフが意外な提案をした。


正直、自分は隣の男の連絡先は欲しかったが、スタッフの番号なぞ知りたくもなく、こちらも教えたくはなかった。だがこの際仕方がない。


スタッフは、ここぞとばかり隣の男の携帯(当時はガラケー)をさっさと自分の手に持ち、甲斐甲斐しく番号登録を手伝っている。


閉店後、まずは隣の男をタクシーに乗せ見送り、自分とスタッフは始発に乗るべく別々の帰り道へ。


家に帰って早々、教えてもらった男の携帯番号に電話をかけてみる。


しかし…

携帯からは、ツーツーと「話し中」の音が虚しく聞こえるのみ。

10分後、20分後、再度かけても同じ。


(おかしいな…何でだろう?)


無性に不安をおぼえ、居ても立っても居られなくなる。

そして暫くして、ついに思い立った。


(そうだ!今から空港に行こう!)


今思えば、なぜそんな無謀なことを考えたのかよく分からない。

ただ、


(もう一度彼に会いたい!)


それだけだった。

すぐにシャワーを浴び、着替えて家を飛び出した。


空港に着くと、土曜ということもあり、すでに人で溢れている。


(何でこんなところに来ちゃったんだろう…)


この期に及んで後悔した。

広い場所に大勢いる中で、彼に会えるわけがない。しばし途方に暮れる。


でも、すぐ気を取り直し、彼から聞いていた航空会社のチェックインカウンターの前まで行ってみる。

幸いチェックインはまだ始まっていない。


どのくらい待っただろうか…


突然、人混みの中、コートを纏い、大きいトランクを転がしながらやってくる彼の姿が…


(あ!あの人だ!)


嬉しさで涙が溢れそうになりながら、急いで男のもとに駆け寄った。


彼は少し驚いた表情を浮かべながらも、素直に喜んでくれた。


「でも、どうしてここに?」

 

訳を話した。

 

すると彼からも、

こちらに何度かけても、「この番号は使われていない」というメッセージが流れたという。


(まさか…)


彼の携帯を借り、チェックしてみる。


(やっぱり!)


自分の電話番号の下一桁が違って登録されている。


今度はこちらから彼にかけてみる。

相変わらず「話し中」であるが、彼の携帯はピクリともせず。

試しに「非通知」でかけてみると、案の定着信。


そう、自分の番号は彼の携帯で着信拒否設定されていたのである。


これは…間違いない!

あの店のスタッフの仕業だ!


なるほど、だから「3人で電話番号交換」という提案をしたわけだ。すべてが合点がゆく。


店での態度といい、あのスタッフに対し、猛烈な怒りが込み上げる。

だが、しばらく彼と話をするうちに、次第に落ち着きを取り戻し、ゲート前で、彼を笑顔で見送ることができたのである。


翌月、帰国した彼と東京で再会。


2人であの店にまた行ってみた。

その後のことは言うまでもない。


あれから10年以上が経過。

その時の記憶は、未だ色褪せることなく、自分の中に残っている。


2丁目の店で偶然出逢った男こそ、誰あろう、今の自分の旦那である。