遠距離恋愛ゲイの独り言〜ふたたび

旦那と15年以上遠距離恋愛しているゲイのブログ。日常の些細な悲喜交々を気の向くままに。

隣のお客~2丁目にて【後編】

数年ぶりに訪れた2丁目は、以前のような賑わいを失い、少しさびれた感じになっていた。

そんな中、立ち寄った昔馴染みの店でのこと。 

 

cherrybeargo.hatenablog.com


最初に隣に座った“自称・井筒監督似”のおじさんのひとり語りに、すっかり辟易していた自分。

そこへ新しいお客がやってきた。


マスターが、

「◯ちゃーん!よかったらこっちに座る?」

と気を利かせてくれる。


そして“自称・井筒監督”のことは、

「続きは、アタシがじっくり聞くわ!」

と、引き受けてくれた。


「ババアと話してもつまんねーよ!」

とブツブツ悪態をつく自称・監督。

でも自分はさっさと席を移動。


(あ~よかった!やっと解放!)


新しいお客はどんな人かな??


マスターが自分に席をチェンジするように言ったのは、うるさいおじさんから解放するためだけではなかったみたい。


そのお客は、質の良い光沢のあるスーツに身を包んだジェントルマン。

自分の好きなガッチリタイプの肉厚なおじさん。


隣に座ろうとすると、こちらに上半身を向け、目を見開くようにジッと見つめる。

少しオーバーリアクションだが、ちっともイヤらしくなく、妙に色気がある。


ビックリしたことに、座る間際に、自分の尻を軽くタッチ!

「いい尻してるね~!」


普通なら、

「いきなり何だ?!」と思うところだが、あまりに自然で、なんだか嬉しくなってしまったアホな自分。


座るやいなや、挨拶のつもりか、おじさんは握手を求めてきた。もちろん、こちらも手を差し出し、互いの手を握り合う。


「柔らかくて綺麗な手だね!」

と、続く褒め言葉に相好を崩す自分。


おじさんの手は、分厚くて温かい。

滑らかで、爪も短く、よく手入れされている。


身体をこちらに向けるたびに、ふんわりといい香りが漂う。

思わず、「いい匂い!」と目を閉じる。

すると次の瞬間、おじさんはこちらの後頭部に手をやり、優しく胸元に抱き寄せた。

突然のことに驚きながらも、ワイシャツの上から、その分厚い胸板にそっと顔を埋めてみた。


体温を感じると同時に、男らしい匂いに思わず反応してしまう。


(このウッディーな香りは、確か…)


「テールドゥエルメス?」


「え!?当たり!凄い!よく分かったね!」

大袈裟に驚いてみせるおじさん。

ちょっと得意な自分。


同じものを持っていることもあり、嗅覚が鋭い自分はすぐ分かった。

エルメスのものは、海外に行った時に買ってきた中のお気に入りのひとつ。


フレグランスを言い当てたことで、自分への関心が少し高まったみたい。

今度は、おじさんが尋ねる。


「君は何つけてるの?いい匂いがする」


ドイツのあるブランド名を告げる。

 

そのブランドは、ヨーロッパでは比較的有名だが、日本には輸入されていないもの。

おじさんは首を横に振る。


そしてすかさず、

「今度、そのブランドの瓶の写メと、商品名をここにショートメールで送ってよ。」

と、グラスを置く紙のコースターに、自分の携帯の番号を書き記し、さっと渡してきた。


(カッコいい!なんてさりげないんだ!)


少し感動(笑)。

同時に、慣れてるなぁ~っていう感じ。

いつも同じ手法を使ってるのだろう。


だいたい、ブランド名なんてWEBで調べればすぐ分かるものなのに…。


これで、連絡をするか否かは、こちらに委ねられたわけだ。


おじさんは50半ばだと言うが、肌が綺麗で張りがあり若々しい!

仕事は某有名デパート(店舗の名前まで教えてくれた)の部長さんだそう。


(なるほど、いつも人前に出てるから、こんなに清潔感があって、人慣れしてるのかな?)


容姿による自信なのか、常に余裕たっぷり、ひとつひとつの動作が堂々としている。そして表情がとにかく色っぽいんだ!


それと、話している途中、やたらボディタッチが多い。手や腕はもちろん、時折肩や腰にまで手を回し、頻繁に触れてくる。

たぶん、こちらが全く嫌がらないからであろう。もしも、さっきまで隣で話していた“自称・井筒監督”が同じことをしたら…。


酔いも手伝って、おじさんの手を握ってみたり、膝に手を置いたりと、自分も調子づく。


彼は話し上手で聞き上手。

とにかく、会話が楽しくて仕方ない。


聞けば、高校時代から大学まで剣道で腕を鳴らしたそうで、今でもたまに近所の練習場で汗を流すのだとか。


なるほど肩がしっかりしていて腕も太いわけだ。


(あゝどうしてこんなに素敵なんだ…惚れてしまいそう(笑))


そう思いながらも、自分は心の中でずっと気になっていた事を、口に出すか出すまいか、心揺れる。


気がつくと、時刻は11時を回ろうとしていた。


おじさんは突然真顔になり、脱いでいたスーツのジャケットをサッと羽織る。

そして、

「マスター!そろそろ…」

と言いながら、GUCCIの長財布をスーツのポケットから取り出した。


会計を待つ間、耳元に口を寄せ、


「今日は付き合ってくれてありがとう。楽しかったよ。フレグランスのこと憶えてたらショートメール送って!」と囁く。


自分は痺れたようにボーッとしてしまった。それは、決して酔いのせいだけではない。

お世辞とは分かっているけれど…。

別れ際、再びガッチリ握手!


「俺のボトルから好きなだけ飲んで帰っていいからね!」


え?!すでにこちらの勘定まで払ってくれていた。


おじさんは後ろ向きで手を振りながら、店を出て行った。


その時、左手の薬指にキラリと光るものに気づく…それは、さっきまで着けていなかったはず。


「やっぱりそうだったか…」と独りごちる。


聞かないでよかった…そう、いい男は決まって誰かのものなんだ。


分かってはいるけど、少し寂しい。


(これどうしようかな?)


電話番号が書かれた紙のコースターを手に、思いは千々に乱れたのである。